AEDのこと その② 心電図のこと [健康]
ひとつ前の記事で、
AED ( Automated Extend Defibrillator 自動除細動器)
についての概論を書かせていただきました。
くり返しになりますが、
誤記や、間違った解釈があった場合は、是非ご指摘をお願いします。
その中で、
- 心室細動(Ventricular Fibrillation : VF )が非常に危険な心臓の状態であること
- VFの確認ができ、呼吸も停止していたら 速やかに胸郭圧迫を開始し、脳血流を確保すること
- 同時に救急に連絡をすること
- AEDは、この心室細動に効果があること
と締めくくりました。
では、AED は、何を判断しながら動作しているのか・・・
それは、体表面にふたつ貼ったパッドから導出した「心電図」 です。
◆心電図
健康診断やスポーツ施設で、心電図検査を受けたことは何度かあると思います。
健診での心電図検査は、
正確には「安静時標準12誘導心電図検査」と呼びます。
両手・両足にクリップを挟み、胸の決められた位置に6個の吸着電極を付け、
12~15秒程度の安静時での心電図を記録する検査です。
安静時の心電図検査の各部位の波形には、かなり多くの情報が含まれています。
その中のサンプル波形です。
各部位で得られる波形はそれぞれ「見ている心臓の位置」が違うため、波形もそれぞれ特徴のある波形となります。
上図 大まかに、「P波」(Pとふってある部分)が、心房の興奮(収縮)を表し、
少しタイミングを置いた後の 「QRS波」が、心室の興奮(収縮)を表し、
その後になだらかにつながる「T波」が、心室の脱分極(弛緩)を表します。
この一連の波形(PQRST)が、心臓の「一拍」を表します。
なので、通常は 「1分間にQRSが何回来るか」 が、「心拍数」です。
ひとつ前の記事でも載せましたが、同じアニメーションを再度載せます。
正常時の心臓の動きと、上図の各波形の関係です。
上図での左上(ここが右心房)の洞結節から電気パルスが発生し、
それがまず心房内に伝搬(これがP波)
続いて房室結節から右脚・左脚に伝搬(ここまでの時間差が、P波とQRS波の間隔)
そして、心室壁に張り巡らされているプルキンエ繊維に伝搬し、心室が収縮(これがQRS波)
左心室から大動脈(上のアニメーションで真上に伸びている血管)を経て、新鮮血が体循環に駆出されます。
で、収縮した心室が元に戻り(ここがT波)、また同じくり返しが始まる・・・
体表面から得られる心電図波形は、およそ数ミリボルトの電位です。
(ちなみに脳波は、頭蓋骨を通しての脳細胞の微弱な電位なので、数十マイクロボルト程度の微弱電位です)
この「一連の」波形のタイミング(間隔)、各波形の「有無」、「波高値」、「波形の幅」、「形」 で、
ある程度、心臓の状態が見えてきます。
但しあくまでも「安静時」での心電図検査なので、
負荷がかかった状態(運動をしたり、お風呂に入ったりして、心拍数が上がってきたようなとき)で発症する病態は分かりません。
なので、安静時心電図に異常が見られたり、異常が無くても自覚症状があったりする場合には、
生活状態での「24時間心電図」(ホルター心電図)や、
負荷をかけながらの「運動負荷心電図検査」(トレッドミルやエルゴメータ、薬物負荷 等)も受ける必要があります。
心室細動時の心臓の様子と、その時の心電図の例です。
画像左下にグリーンの輝線で描かれているのが、モニタ心電図です。
◆AEDの救命措置
発作で倒れた人がいて、
意識がなく、呼吸も止まっている場合、
救急に連絡すると同時に、
胸骨圧迫を開始(毎分100回程度のスピード、胸骨が5センチ程度沈むくらいの力で)し、
AEDが近くにある場合、
AEDのふたを開けると自動で電源が入り、
さらに「パッドを図のように胸に貼ってください」というAEDの自動指示に従って胸にパッドをふたつ貼ると、
直後からAEDが、心電図解析を始めます。
AEDが、「重篤な不整脈」である「心室細動」を認識すると、
除細動用エネルギーチャージを自動で開始し、
要除細動者に触っている人がいないことを確認して
カウンタショックボタンを押します。
現在、国内では医療機器メーカー数社がAEDを取り扱っていて(自社製品、輸入製品含む)、
さらに販売網は、メーカー独自の販売ルートの他、商社、セキュリティ会社 等 幅広い取扱です。
私はその中の一社の製品しか扱ったことがありませんが、
ガイド音声はとても大きく、聞き間違えることはまずありません。
AEDの操作自体は、非常に簡便にできています。
AEDが設置されているのは、大体 白いボックスですが、
この設置ボックス自体には充電機能はありません。
AED本体には、リチウムイオンバッテリーが装着され、
パッドのコネクタもあらかじめ接続されています。
(パッド自体は、開封されていません)
ボックスからAEDを取り出して(この設置ボックスの扉を開けると、とても大きなアラーム音が鳴ります。)、
AEDのカバーを開くと電源オンになり、
直後からセルフチェック(バッテリ残量、パッドケーブル接続チェック)が走り
異常が無ければ、すぐに使用できる状態になります。
AEDの保管バックには、予備のパッドの他に、小児用パッドが入っていることがあります。
パッドを貼る位置は、基本的に 右鎖骨下 と、左脇腹(中腋下線) のあたり
大切なのは、ふたつのパッドで、「心臓を挟む」様に貼ることです。
それと、
プールや海でAEDを使うときは、
要除細動者の体表面 特にパッドの間が濡れていたら、必ずさっと拭くこと。
そうしないと、除細動のエネルギーが心臓まで到達せずに、
濡れていてインピーダンスの低い体表面を流れてしまいます。
体表面のパッド間を流れると、時に火花が飛び、ひどい火傷になる場合があります。
「倒れている人がいたらどうすればよいですか」(日本心臓財団)
「コール&プッシュ 誰でもできる胸骨圧迫+AED蘇生法」(日本循環器学会)
心電図についてもう少し、次の記事に書くことにします。
※心臓の動き 及び 救急救命方法、AED操作 等についての詳細は、
最寄りの消防署、医療機関等へお問い合わせください。
AEDは時々見かけますがよく考えてみればいざという時私の場合焦ってしまうと思います。知っている人はどれだけいるのか・・・AEDだけではなくその後の人工呼吸、心臓マッサージも大切なんですよね。^^;汗
by ソニックマイヅル (2011-08-17 06:18)
AED、うちの会社にも設置されるようになりました。幸いまだ使用されたことはないようですが・・・。
松田選手のJFLでは、設置は義務ではなかったようで、そこが残念ですね・・・。
by のろ (2011-08-17 11:36)
ソニックマイヅルさん、ありがとうございます。
商店街や、商工会議所でも用意されるところが増えてきているようですね。
正直なところ、私も幸いにして街中で人が倒れてAED適用になるような場面に遭遇していません。
人が倒れたとき、果たして身体を動かして良いのか悪いのか そこから判断が迷います。
嘔吐していたり泡を吹いていたりした場合は、気道の確保もしなければならず、やはり怖いですね。
しかし、AED自体の取扱は非常に簡便にできています。
パッドさえきちっと貼れば、心電図解析の精度も まず問題ないと思います。
ごく希に、AEDに関する事故のニュースを聞きますが、AEDを導入したら、とにかく日常点検と、メーカーの定期点検をきちっと受けること
記事でも書きましたが、AEDは設置状態でバックアップ充電はしていません。
なので、使用しなくても自然放電で、自ずとバッテリーの寿命があります。
同様に、パッドにも使用期限が明記されています。
いざというときのためには、この定期点検がとても重要です。
人工呼吸と心臓マッサージ(胸郭圧迫)は、私が医療機器メーカーに在籍していたときに受けた研修と、最近の指導内容が違ってきています。
昔は、胸郭圧迫10回に1回ずつ、マウス・ツー・マウスで呼気を入れること と憶えていたのですが、最近は、まず胸郭圧迫のリズムが早くなったこと(100回/分)、感染症等のリスクもあるため、人工呼吸は入れなくてもよい という指導になってきていること と、何かで読んだ覚えがあります。
これについては改めて確認・勉強中ですが、現在の方法が正しいような気がします。
まずは脳血流を止めないこと これが最も大切なことだと思っています。
by hidechan (2011-08-17 16:05)
のろさん、ありがとうございます。
>AED、うちの会社にも設置されるようになりました
企業でも準備するところが増えているようですね。
確かのろさんの会社は、某セキュリティ会社経由での設置 でしたでしょうか・・・
数ある医療機器の中でも、「使わずにいたい」機器の上位組ですね(笑)
ただ、設置会社の定期点検はきちっと受けるようにしてください。
普段の点検は、2分もあれば完了です(!)
サッカーのことが本当に疎いのですが、Jリーグが開催されるスタジアムは、AEDの設置義務があるそうですね。
しかしJFLは義務化していなかった・・・
更に今回事故があった松本のグラウンドには、AEDが設置されていなかったそうですね・・・
そんなにかさばる機械ではないのだから(重さ3キロくらい でしょうか・・・)、チームが移動するときには何台か持っていくべきですね。
by hidechan (2011-08-17 16:17)
yangt3さん、ご訪問&niceありがとうございます。
不勉強でお恥ずかしい限りです。
間違った解釈や不足部分は、是非ご指摘ください。
by hidechan (2011-08-17 16:20)
思っている以上に
AEDって優れものだったんですねぇ
心電図まで読み込んでいるんだぁ!
これなら本当、どこにでもあってほしいですね
あとは30万円ほどの価格、あるいは月額5千円のリース代
それをどうするかですねぇ
by 大将 (2011-08-17 20:37)
AEDの研修、2回程受けましたが
いざ本番となると、使いこなす自信がありません^^;
使わないコトを願うばかりです。。。
by たかれろ (2011-08-17 23:31)
4年前の夏になりますか。キャンプ場の川で溺れた人を助けたことがあります(自分のブログの初期に詳細を書きました)。山奥でもあり、AEDなんてものはありませんでした。あったら使っていたかも、です。
引き上げたときは完全に心肺停止状態でしたが、必死に胸骨圧迫を繰り返し、何とか蘇生させた経験があります。
そのときの経験から、もちろんAEDは大事なツールですが、それまでの処置が最重要であると思いました。極端な言い方をすれば、AEDは機械が使い方を指示してくれますが、それまでの処置は知っていなければできません。
hidechanさんの説明では、発作で倒れた人がいて、意識がなく、呼吸も止まっている場合、胸骨圧迫を開始、と書かれていますが、この前に頭部後屈顎先挙上法(言葉の通り、頭を後ろに曲げ、顎を上げさせて口と気道を一直線にさせる)による気道の確保が必要ですので、付け加えさせていただきます。
ちなみに胸骨圧迫の「毎分100回」は、私がこよなく愛する中島みゆきの「地上の星」、あの歌のリズムが「毎分100回」です。ご参考までに(^^)
by ヒロ (2011-08-18 10:48)
【追記】
現段階では2005年のガイドラインがまだ生きていて、胸骨圧迫と人工呼吸は、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の繰り返しが正解です。ただ、昨年の応急手当普及員の更新講習では「次回のガイドライン更新の際には人工呼吸はなくなるかも」とのことでした。実際、統計によると人工呼吸があってもなくても生還率はほとんど変わらないようです。
by ヒロ (2011-08-18 11:03)
e-g-gさん、ご訪問&niceありがとうございます。
by hidechan (2011-08-19 09:18)
大将さん、ありがとうございます。
>心電図まで読み込んでいるんだぁ
そうなんです。
今までずっと、医師や救急救命士しか取扱ができなかったのは、これが大きな理由です。
次の記事に書かせていただきましたが、カウンタショックを当てていい時期と、絶対に当ててはいけない時期が、心臓の一拍一拍にあります。
本来のカウンタショックは、心電図モニタを見ながら、マニュアルでふたつのパドルのボタンを押していました。
パドルの圧着具合(身体に押し当てる強さ)やエネルギー設定も、ドクターの判断で行う、「救命救急」では「最後の手段」というイメージでした。
それが、心電図解析の精度と、パドルを貼るだけ という操作体系の簡便化が進んで、まず救急搬送時の救急救命士が、心電図を搬送病院に電話伝送しながら、ドクターの指示の元でカウンタショックが行えるようになった。
搬送中の心臓蘇生ができるようになって、救命率がぐっと上がった。
AED自体の安定性も問題なくなってきた。
ならば、一般市民でも扱えるように・・・ と、法改正されて、普及した と言う経緯です。
本当にシンプルにできている医療機器ですが、正しく使えば、頼れるヤツですよ!!
by hidechan (2011-08-19 09:31)
misttaさん、ご訪問&niceありがとうございます。
by hidechan (2011-08-19 09:32)
たかれろさん、ありがとうございます。
>AEDの研修、2回程受けました
すばらしいです。
操作自体は、今時のスマートフォンなんかよりも全然簡単ですよね(汗)
できれば活躍して欲しくない機器ですが、触ったことがある と言うだけでもずいぶんと違うと思います。
by hidechan (2011-08-19 09:35)
ヒロさん、ありがとうございます。
ご指摘ありがとうございます。
感謝です。
すっかりAEDの記事のことばかりが先行してしまって、最も大切なところが飛んでしまいました。
呼吸の有無の確認と気道確保 最重要です。
仰向けになっていたら、顎をぐっと引き上げて首の下に着ていたものでも何でもいいので丸めてあてがって、気道確保する。
吐瀉物がある場合は、頭を横に向かせてまずそれを取り除く。
それから、やはり大昔の研修(!)でたたき込まれたことがあるのですが、心肺停止になっていたら、一度 胸骨のあたりを強打する(平手ではなく、グーで、かなり強く叩く) 要はカウンタショック同様の衝撃を一度加えて、拍動が復帰するかどうか確認する ということも実際実習したのですが、最近はそんなことはしないのでしょうか・・・
>胸骨圧迫の「毎分100回」は、私がこよなく愛する中島みゆきの
>「地上の星」、あの歌のリズムが「毎分100回」です。ご参考までに
・・・何とも有益な情報です!
「宙船」だと早すぎるんですね(!?)
ガイドラインがまた変更される可能性がある ということなんですね。
人工呼吸を入れなくても、蘇生率に大きな影響はなかった と言う内容の記事か論文を何かで読んだ記憶があります。
もう少し調べます。
by hidechan (2011-08-19 09:51)
こんにちは。
あえて飛ばしたのですが流石ですね。気道確保の前に意識と呼吸の有無の確認をするのは、たしかに指導されますね。
胸骨の辺りをグーで強打する(前胸部叩打)というのは、ボクが受講した限りでは教えられませんでした(ガイドライン2005)。
ただ、漫画『JIN-仁-』の第9巻でそのシーンがあり、その欄外解説によるとアメリカ心臓協会の2000年のガイドラインでは1回だけ行使がOKだったのが、2005年のガイドラインでは推奨されなくなった、とのことです。
by ヒロ (2011-08-19 18:17)
ヒロさん、ありがとうございます。
>ただ、漫画『JIN-仁-』の第9巻でそのシーンがあり、その欄外解説によると
>アメリカ心臓協会の2000年のガイドラインでは1回だけ行使がOKだったの
>が、2005年のガイドラインでは推奨されなくなった、とのことです
・・・今回の連載を書きながら痛感したこと・・・
自分自身のCPR知識のバージョンアップが急務であること(!)
ヒロさんにいただいたコメントのお陰で、そのことに気づきました。
・・・正直なところ、現役の時の知識から全くバージョンアップされていません。
早速、講習を探して、最新の蘇生法を体験してこないと・・・と痛感しています。
by hidechan (2011-08-21 19:39)
井上酒店さん、ご訪問&niceありがとうございます。
by hidechan (2011-08-21 19:40)